ぬくもり

きっと長い間一緒にいる俺らは、既に家族なのだろう。

ただ、俺が理解出来ないだけで。


トシマを脱出して、源泉と逃げる様に転々と居場所を変えながら、暮らし初めて、如何に自分の見ていた世界が小さかったのかと実感した。

これでは、ガキ扱いをされて当然だ。

トシマにいた時は、源泉の一々からかう態度に、激しく反発心が生まれたが、正しく源泉から見たら、俺は何も知らない赤子の様だったに違いない。

食事はソリドでも充分なのに、温かな物も、冷たい物もあって。

ソレを食べる事に、酷く戸惑う。

以前は自分の身体ひとつで、同じ人間を叩きのめして、金を貰ったりしていたけど、

外を見れば、そんな奴など此所にはいない。

CFCと日興連の衝突で、一番の被害者の、その土地に生きてきた者達は、争うよりも必死で助け合い生きている。

だから、たとえ源泉がいつもの無精髭で笑いながら、無骨な暖かな手でアキラの手を引いて、この場所に溶け込ませ様としても、ふとした瞬間、息の仕方を忘れてしまう位苦しいんだ。

この生温い空気に耐えられない。


だけど、源泉はこの空気に馴染んでいて。


俺だけが黒い疎外感という錘が何重にも纏わりつく様に、身体が重い。

これが、ボーダーラインか?

何処へでも行ける者と。
その場所でしか生きられない者の。

外の世界に飛び出してみれば、自分の無知や無力さを痛感するばかり。

思わず苦笑いをする。
源泉が俺の声に反応して振り向くが、あまりいい表情では無いだろうから、下を向いて無視をする。

監視されているのとは違う
胸をざわつかせる視線。

源泉の傍にいたい気持ちは嘘じゃない。

求められれば、返したい。
理解したい。

ただ……

止められない衝動のまま、源泉の手を振りほどき
ナイフを握り締めて、壊れた様に叫びながら生温さから逃げて、あの薄汚れた場所に帰りたくなるんだ。

あまりにも此所は幸せ過ぎて。