慈愛

俺と五条先生は、付き合っている...らしい。


らしいというか、付き合ってはいるのだが、なぜ五条先生のような人が
俺を見てくれるのか、理由がわからない。

 


大切にされている、とは思う。
これ以上にないほどに。

 


幼少からの付き合いで、その延長戦かとも思ったのだがそうでもなく
「愛」らしい。

 

いつも飄々としている五条先生が、耳まで赤くして「恵が好きだ」と言った時には
驚きを通り越して、影に逃げてしまいそうになった。

 


逃がさないとばかりに両肩をつかんだ五条先生の熱い手。

怖いくらい澄んだ真剣な瞳。

赤い頬と耳。

 


いつでも思い出せる。

 


そんな五条先生がよく言う言葉がある。

 


「恵が18歳になったら、恵を全部ちょうだい。」

 


笑顔で言った後、照れて少しうつむき何とも言えない口元をもにょもにょとさせて
でも、幸せそうに言う。

 


だから俺は、迷うことなく

 

「はい。」

 

そう、即答するのだ。

 

 

その時が本当に来るのか。

 

その時俺は五条先生の隣にいることができるのか。

 

 

生きているのか。

 

 

生きていられるのか、ざらりとした淀みを心にためつつ。

 

 


その澄んだ瞳を見返して誓うことはできず、閉じてしまうけれど。

 

 

 

 

できれば そう であってほしい。

 


俺は心の隅で願った。