ファーストキス

疲れて帰宅をした部屋には、天使がいた。

 


ソファに、くうくうと眠る恵を見て、驚きのあまり使っている目隠しを破ったほどだ。

 


布が床に落ちる音がたつのすらも許せなくて、

 

慌てて空中で回収した。

 


恵には、鍵を渡してあるからこういうこともありえるのだが、
遠慮をしているのか、今まで使われたことはなかった。

 


それを寂しいとは思っていた。

 


一週間の出張。


それが、何だかんだで二週間になってしまい、恵と毎日電話やメールをしていても
会うのは久しぶりだった。

 

それどころか、「五条先生、ちゃんと仕事をしてください。」と毎日の電話に
大きなため息をつきながら苦言を言っていたくらいだ。

 

 

その恵が、いる。

 

自分のテリトリーに。

 


静かに、静かに近づく。

 


テーブルには飲みかけのペットボトルと、本が置いてあった。

 


読み疲れて眠ってしまったのかもしれない。

 

 

そもそも、もうすぐ日をまたぐ時間だ。

 

ただでさえ眠たがりな恵が起きている時間ではない。

 


間近まで近づき、その寝息とかすかに香るやわらかな恵のにおいに現実なのだと実感した。

 


右手を曲げ、左手を重ねるようにして眠っているため、五条には恵の顔が半分しか見えない。

 


よくもまあ、こんなにかわいく眠れるもんだ。

 


恵にとっては理不尽な怒りを少し覚えつつ、じっと見つめる。

 


寝息を立てる


色鮮やかな唇。

 

 

 

 

半分なら、その唇を頂いてもいいんじゃないか。


半分だし。

 


寝てるけど。


半分だし。

 


晴れてお付き合いにまでこぎつけたが、


いつも恵が恥ずかしがって、中々キスもできないのだ。

 

それすらかわいいのだが。

 

めちゃくちゃかわいいのだが。

 

 

 

もしかしたら誘われているのかもしれない。

 

自分の考えにどくどくと心臓が鳴る。

 

五条悟の頭は疲れていた。

 

 

 

これ以上にないくらいの集中で近づくとそーっと、かすめるだけの口づけをした。

 

 

 

 

 

「...う、わっ...帰ってたなら起こしてくださいよ。」

 

体育座りで伏黒を見つめている五条の姿に驚いた。

 

つい眠くなってしまい、ソファで転寝をと思ってしまったがしっかり眠ってしまっていたらしい。

寝室から持ってきてくれたのであろう、ふわふわのタオルケットが

身体にかかっていた。

 

「恵の寝顔見てたー。」

 

めっちゃかわいかったーと、にへらと笑っている様子を見て

この人疲れてるなと察する。

 


「.........五条先生、お疲れさまです。」


それと。


「おかえりなさい。」

 

その大きな身体に思いきり抱きついた。