ハローハロー、ワンダーランド

「恵抱き枕があったらいいなぁ。」

 


また、変なことを言い始めた。

 


3日ぶりに会った五条先生の顔には、声は普通でもありありと疲れの色があった。


その顔を見て、出直そうと思ったが、


恵がいなくちゃ始まらないじゃん!!と力強い腕に抱きしめられて


ソファに連れていかれて、今に至る。

 


「任務で疲れた時、抱きしめて癒してもらうの。恵そっくりな恵型抱き枕。」

 


等身大で作るか!!と、五条先生は何やら真剣に考えだした。

身長は...体重も...とブツブツと言う言葉は、何やら抱き枕から逸脱し始めた気がするが。

 


俺は思ったことを口にする。

 

「そんなの俺を連れて行けばいいじゃないですか。」

 


いつでも、どこへでも。

 


言ってから、これ恥ずかしいやつじゃ...そもそも五条先生の言葉に何真面目に
答えてるんだと我に返る。

 


そろっと、五条先生を見ると、意外だったのかぽかんと口を開けて
こちらを見ていた。

 

「.........。」


「.........。」

 


「やっぱ、今のなしで...っ!!!」

 

近くにあったクッションで顔を隠す。


しかし、クッションをはがされ、ぽーんっと投げられてしまい赤くなった顔を隠せない。

 


五条先生のあたたかい手に両頬をがしっとつかまれ、そらすこともできない。

 

 

「うん!!将来的には毎日毎時間毎秒離さないからね!」

 


「おもっ...。」

 

ちょっと引いた。


この人ならやりかねない。

 

 

よーしっ、今から練習ね!と、がばりと抱きつかれる。

 


練習ってなんだよ...いつもと変わらないではないかと思いつつ。

 

 

 

五条先生に抱えられて移動をする自分の姿が楽に想像できて、
できれば片腕抱っこぐらいがいいと、
諦めるように遠くを見た。

 

 

 

 


(ここで終わりにしようと思いましたが、追記)

 

 

 

 

「じゃじゃーん!!そういうわけで五条先生型ぬいぐるみでーす!」

 

そう明るく言う五条先生の手には、ぬいぐるみにしては大きい、
でも、特徴をとらえたまあるい物体が抱えられていた。


目隠しもちゃんとある。
色は、髪色の灰色と目隠しと服の黒と肌のベージュなのに、分かるもんだなと思った。

 

ただ、なにが「そういうわけなんだろう?」と疑問に思っていると。

 

「恵が五条先生がいなくても寂しくないように、作ってみた!」


特注だよ!!とこちらにずいっと向けてくる。

 

「僕は恵を一時でも寂しくさせたくありません!!」


言葉は、素敵だが絵図らがやばい。


自分を模した大きなぬいぐるみを持つ五条先生。


いくら格好良くても合う合わないはあるんだなと、伏黒はしみじみ思った。

 

「だから僕がいないときは、これで癒されていてよ。」

 

そう差し出されたぬいぐるみを、「はあ。」とあいまいに答えながらも受け取る。

 

しかし、手に触れたそれに伏黒は驚愕をした。


(ふわふわ、柔らか!!)


ぬいぐるみと侮っていたが、その手触りは最高級だ。

 

 

思わずぎゅうと抱きしめそうになったが、五条がじーっと見つめているので止めた。

 


「.........何か先生、ぬいぐるみに嫉妬しそう。」


「心が狭いですね。」


きっぱりと伏黒は言い放ち、


持ち上げてぬいぐるみと目線を合わせてみると、顔の半分は目隠しで隠れているが、
愛嬌のあるかわいい顔だ。

 

かわいい。


すべすべで肌触りもよさそうだ。

 

思わずその顔に、自分の顔を近づけようとすると、「ていっ!」という言葉とともに
手にしていたぬいぐるみが吹っ飛んだ。

 

呆然と手の形はそのままに、開いた空間を見ていると

 

「浮気はいけません!!!」


五条はそう叫ぶと、伏黒にぎゅうぎゅう抱きついてきた。

 

「あんたが持ってきたんでしょうが。」

 

「そうだけど、そうだけど!!五条さんが目の前にいるのにっ。」

 

わめきだした五条先生に、
この人は本当にもう仕方がないなとため息をつきつつ。

 


「俺には、これでいいです。」


そうつぶやくと、大きな身体を抱きしめた。

 

 

 

 

部屋の片隅には、思い切り飛ばされたぬいぐるみが、ちょこんと放置されていた。

 

 

 

 

後日、もったいないからと伏黒の部屋にぬいぐるみは引き取られたが
ベットに置かれたそれに、遊びに来た虎杖は

 

「なんか変なものがある。」

 

と正直に伏黒に聞いた。