むずむずする

ちょっとした息抜きの旅行を仲間達で馬鹿騒ぎをしながら楽しんだ数日後
ユキヒトの鞄に俺の物が紛れ込んでいたとかで連絡を受け
それならと、俺はユキヒトがアキラと共に住む部屋に出掛けていった。

紙やら日用品やらが床に散乱している汚ねえ奴等の部屋の、辛うじてスペースのある
片隅に待機させられながら、
今俺は何で此処に来ちまったのかと、後悔していた。


「片付けないからこうなるんだよ!」

「だから、俺だけの所為じゃないって言ってるだろう!」

ユキヒトとアキラは、言い合いながら部屋を手や足でかき混ぜていく
...どう見ても「掃除」じゃねえ。
どうやら、あまりの部屋の汚さに、俺がこの部屋に着く前に俺の忘れ物
紛失してしまったらしい。
無くしたのはこいつ等だが、自分の友人達が自分の事で喧嘩状態になるほど
気まずいものは無い。

「おい、アキラ...」
ふと、何かを思いついたように、でも探している手はそのままでユキヒトが
アキラの名を呼ぶと

「ほら」
アキラがユキヒトに向けて、何かを放り投げた。

「悪い」
掌に受け取ったものを確認すると、満足げにズボンのポケットにしまう

なんだ?
何か、自分の探し物でも思いついて、アキラに聞いたってとこか?

そういえばさっきも
アキラがユキヒトの名前を呼んだら、返事と同時に何か投げていたな...。
...........その会話にはいつも「物」の名前は無いような...?
...考えれば考えるほど、不可解な会話だと気付く。

何を探しているとか、そういう会話は一切無いのに、こいつ等どうして当たり前のように
やり取りをしているんだ?

それって何か...。

こう、何か当てはまるような言葉が浮かびそうになるのだが、モヤモヤと霧が掛かる様に
はっきりしない。
片隅でひとり、答えが出ないまどろっこしさに唸っていると

「う、わっ!?」
アキラが床に散らばる紙で滑りそうになり、体勢が崩れる
俺は慌てて助けに行こうかと思ったが、それより先にユキヒトの腕がアキラの腰に回り
空を舞ったアキラの手を掴んだ

ふぅ...、と一瞬安堵の様な溜息を吐いた後、「...ドジだな」と呆れた声で
ユキヒトが苦笑いをする

「...わ、悪い」
アキラもまだ動揺があった所為か、静かにユキヒトに支えられている

そう、支え.........長くねえか?

俺の視線に気付いたのか、バッとふたりは離れると、また部屋を捜索し出した
でも、何ともいえない微妙な空気が漂う
説明するには難しいような...これって何なんだ?

「あのよ、俺......ここにいても、大丈夫か?」
訳が解らない気まずさに絶えかねて俺はぼそりと言った。


「......は?」
アキラが手に紙を大量に掴んだまま、何を言い出すんだという顔で俺を見つめる

「お前、何言ってんだ?
 そりゃ無くしたのは悪いとは思うけど、ぐだぐた言ってんじゃねえよ。黙って待ってろ」
無くした原因のひとりでもあるだろうに、探すのが面倒になったのか
ヤケなのか、苛々した口調でユキヒトが俺を睨み付ける

俺は言われるがまま、また部屋の片隅でおとなしく出来るだけ小さくなって
早く俺の物が見つかって帰れるように誰にとも無く祈っていたが
...何か訳わかんねえ空気というか、背中や尻がむず痒いというか
モヤモヤした気持ちは消えないどころか、益々増していく

......ダニかノミでもいるのか、この部屋?