王様

全ての王様
全ての支配者
ガタクタのお城の真っ赤なおめめの我儘坊や


「シキ……」
遠征から帰って来たシキを後ろから抱き締める。
余程手応えが無かったのか、燃え盛るでも無く、トロトロと燻る炎がまだシキの身体の中にある様。


折角の綺麗な顔なのに…。
憮然とした表情のまま、空を見つめる。

こっちなど、見向きもしない。


あぁ、でも
なんてキレイな紅い…

思わず、その二つの紅いモノに、ゆらりと手を、爪を刺し入れ様とすると、加減無しの力で振り払われた。

痩せ細って体力の無い自分等、ひとたまりも無く振り払われるままに、倒れる。


「………シキ…、御機嫌ナナメ…?」
理由なんて解っている。
言葉にされる事が、どんなに煩わしいのかも。

でも、シキがクダラナイ支配者遊びに出ている間、おとなしく待っていたのに。
酷い。

ちゃんと、オレは待っててあげてるのに。

ラインを使い、人形の様な兵士を増やし、領土を増やす。
敵う者等いない、解りきった戦。
媚び諂う愚者共。
血で繋がれた、空っぽの絆


反乱分子の討伐も、ほんの刺激的な遊びにしかならない。

業と生かして、このゲームを長引かせる。
大切なモノたち


既に退屈でしょうがなくなっているんだ。
シキも、
……………オレも。

「ねぇ、シキ…」
憮然としたままのシキに、絡み付く様に腕を回す

その怒りを、オレにぶつけてもいい
手酷く抱いても構わない
だから…だから。

アンタが壊したオレにまで、終わりを感じさせないで。

それなのに…。

「……。」

頭上から、溜息。
全てが飽和してしまった様な。

唇を噛む。
血の味がする。


アンタが…アンタが望み、全てを壊したくせに…!


抱き付いていたシキの身体を思い切り突き飛ばす。
オレにこんな力が残っていたのかと、驚く表情を見るとクツクツと嗤いが込み上げて来る。

「シキぃ…カワイソウだねぇ…」
項垂れ、視線だけ上げてシキを睨みながら、零れる嘲笑が止まらない。

「…なんだと?」

キツく睨む紅い眼
あぁ、何て綺麗
ゾクゾクする…。
だけど、これが曇り始めているなんて…!

「ふふふっ…、もう全部がシキのモノ」

そう、実行すれば
全て人間をライン浸けにしてしまえば、全てはシキのモノになる。

無駄な遠征
ゲームでしかない行為

言うが侭の人間
以上でも以下でも無い意思
…全ての終わり。

だから怖い
望んだのは自らのくせに、今更現実が見えている。
怖がって、怯えている愚かな支配者。

「もう逃げられない程、終わりが見えているのに気付いたんだろう!?何したらいいかどうしたらいいか解らなくて、怖くて、退屈でしょうがないんだ!」

見たくない。
そんなシキ何て見たくないんだ。

「あははははっ!ははっ、シキってかわいそうっ!かわいそうっ!かっ…」

狂った様に叫びながら嗤うオレの首に、シキの両手が潰さんとばかりに絡み付く。

「がっ…」
条件反射のまま力無く、口から唾液を垂らしながら、首に巻き付く指を掻き毟る

「…だまれ」
キツくオレを睨みながら、首を絞める指に力が入る

だけど…、その声の微かな震えを、戸惑いをオレは聞き逃せない。

聞き逃せないんだ…シキ。

ちゃんとオレは解っているんだ。
可哀相なシキ

だって……、オレは同じものを見て来たんだ。
ずっと傍で。
世界が崩れ始めて楽しくてしょうがなかった時も、虚しさを覚え始めた時も。
シキと同じものを。
ずっと

そんなオレを
唯一、ラインの血にも負けない、本当には言いなりにならないオレを殺せないって事。

あぁ、声にはならないだろうけど、可笑し過ぎて笑いが込み上げる。
胸がゾクゾクする…。

絶対、息が止まる前に指が離れる事を知っているから。

シキは…ひとりぼっちではいられないくらい弱いから。

可哀相な絶対的支配者。


オレは何時でも壊れたままで、シキを待っていてあげるのに…。