ロマンはひとそれぞれ


会った時からどこかそわそわしている五条に、伏黒は気づいていた。

 


そして、何故か今お互いソファに正座をしている。

 

 


伏黒はともかく、五条は窮屈そうだがそれどころではないらしい。

 

 

「伏黒恵さん、男のロマンというものをご存じでしょうか?」

 

「あんた、突然何キャラですか。」

 


恵に話したいことがあると、真剣な声で言われて、ちくりと来た不安を返せ。

 


五条が何故か正座をしたので、何となく伏黒もそれにならったが、


これはどうしようもないことだなと直感し、


座りなおした。

 


「恵に、僕の服を、特に上だけを着てほしいです!!お願いっしまっすっ!!」


土下座かというような態勢になりそうだったので慌てて五条の肩を押さえて止める。

 


「そんなことぐらいで何でこんな雰囲気だったんですか?」

 

あまりの奇行に呆れる。

 


「そんなこと!?いやいや、これは重大なことだよ!!」

 

こんこんと説明が始まりそうだったので、大声うるさいとばかりに伏黒は
五条に答えた。

 

「着ます。何着ればいいんですか?」

 

男の何とかとか言っていたが、ただ単に五条の服を着るだけではないか。

 

伏黒は呆れたが、五条はそうではないらしい。

 

ぱあっと顔を輝かせる。

 

ここは鉄板的にシャツかな!?でもニットも捨てがたい!!

 

うんうんと頭を抱えて呪文のようなものを言いながら悩んでいる五条に引きつつ
埒が明かないと、左手を差し出した。

 

「五条先生、上着、脱いでください。」

 


「ええええっ!?恵ちゃん!?」

 


きゃっ!と胸の前で両手を組んで高い声を出す五条に、気にしていられないとばかりに
伏黒は再度言う。

 

「丁度いいじゃないですか。今着ているのを貸してください。」

 

 

まだ、シャツがニットがといっていたが
伏黒が気を変える前にとばかりに、五条は着ていた上着を脱ぎ始めた。

 


上着を脱ぐ仕草にドキリとしたことは言わない。


ふんわりと香ったにおいに胸が高鳴ったことなど。

 


「はい、恵様お願いいたします。」

 

「だからそれ何キャラですか。」

 

いちいち入る謎の言葉にツッコミを入れつつ、伏黒は渡された上着を手に取った。

 


自分と同じ生地の上着のはずだが、重い。

 

クソっとこころで悪態をつきながら、自分の上着に手をかけた。

 

 

 

首回りも、腕の長さも、丈もどこも大きい。

 

伏黒の制服とは全く違う。

 


もっと食事と筋トレがんばろうと心に決めつつ。

 

五条の上着を着たあと、ズボンとトレンカを脱ぐ。

 


確か五条は「上だけ」と言っていたはずだ。

 


隣からあわわっという声が聞こえて視線を向けると、


五条は両手で顔を押さえつつ、指の隙間からこちらを見ていた。

 

別に男同士の着替えぐらい見るならはっきり見ればいいのに。

 

 


「これでいいんですか?」

 

悔しいが、五条の上着はぶかぶかでひざ下まで伏黒の足を隠した。

 

 


絶対領域が無い!!でもこれは、これで...でもっ!!」

 

くうーっ!!と奇声を上げて五条がうなる。

 


情緒不安定か。

 


絶対領域?」

 

「えー、太ももと膝までの区域といいますか...チラ見せ?」

 


「何と比べてんですか?」

 

「比べてなんていませんっ!!断じて!!絶対!!」

 


ぐわっと、両肩をつかまれるが顔が怖い。

 


情緒不安定すぎる。

 

 

そもそも、だ。

 


「あんたのが、大きいのがいけないんですよ。」

 


「............。」

 

 

五条はがばっと床に突っ伏すと、

 

「恵ちゃん!!五条さん、汚れた大人でゴメンネ!!」

 

涙声かもしれないというような声で叫ぶ目の前の男に。

 

 

 


ついていけないと思った。