あなた以外ふれてほしくないの

無事に任務は終わった。

 

だが、ひとつだけイレギュラーなことがあった。

 


「あんた!!変なものを消してくれたんだろう!?」

 

大柄の男性が、こちらへ向かってくる。


視えはしないが、何かを感じていたのだろう。

 


「感謝する!!」

 

そう大声で叫ぶと、いきなり俺の両手を力強く握りしめた。

 


「ちょっ...っ、何ですか。」

 

「この土地には、開発をしようとすると事故が起こるし困ってたんだ。」

 


いやー、良かった良かった。とはたから見れば笑顔で安堵をする男性だろうが、

 

手がなかなか離れない。

 


それどころか、何処か味わうように親指でさすりと触られて、ぞわっとした。

 


これは何だ。

 

「ねぇ、君。もしよかったらこれから」

 


「すみません。彼はこれから報告のために帰宅しなければならないので、手をお放しください。」

 


男性が言葉を続けるのに、食い気味に新たな声が聞こえ、安心した。

 

 

「伊地知さん...。」

 


「しかし、もう夜遅い。こんな子供を働かせるなんて。」

 

「いえ、寮に帰るだけです。私が送り届けますのでご安心を。これは決まりです。」

 

まだ何か言いたそうな男性だったが、珍しく伊地知さんの毅然とした態度に


諦めがついたのか、その手を離してくれた。

 

ただし、ぬるりと改めて手首から指先までを触れた後に。

 

 

 

 

疲れた...。

 

「めっぐみー!お疲れサマンサー!」

 

「うわっ、出た。」

 

「もー、人をGみたいに言わないのっ。」

 


寮まで伊地知さんに送ってもらい、入り口をくぐろうとすると五条先生がいた。

 


正直、このもやもやとした気持ちがあるときに出会いたくはなかったが、

 

夜の暗闇に立つ姿はきれいで、

 

ぼうっと見つめる。

 

 


「恵。」

 


今までと打って変わって、真剣で優しい声が響いた。

 


「手を出して。」

 

その言葉に、何故かぎくりとして、でもぎこちなく手を差し出す。


カタカタと震えてはいないだろうか。

 


そう考えて、震える?と自分が思ったことに驚いた。

 

 

「怖かったね。もう大丈夫だよ。」

 


五条先生の大きなあたたかい手に、包まれる。


ぬめっとした、力の加減を知らないあの気色悪い手ではなく、慈しみが伝わってくるような手。

 


.......................伊地知さんめ。

 


きっと、伊地知さんのことだ。

 

事細やかに「報告」でもしたのだろう。

 

「怖いとかそんなんじゃなくて......嫌だっただけです。」

 


そうだ。


五条先生以外の、「欲」を持った人間に触られるのが嫌だったんだ。

 


目の前の大きな身体に、ぽすっと頭をあてる。

 

あたたかい、落ち着くかおり。熱。すべて。

 

 

 


「五条先生じゃなきゃ、いやだっただけです。」