暗闇
冷房をずっとつけているわけにもいかず、1階ではないからまあいいかと窓を開け
熱風と、それに混じる静かな夜の空気の気持ち悪さに眠るのを苦労していると、
喉の渇きを覚え、部屋の電気をつけてキッチンに向かった
大気や地を切り裂くような勢いで、雷が鳴り響いている
冷蔵庫からペットボトルを出し、コップに移そうとした所で
部屋の電気よりも明るい光と、爆発音のような雷の後、全ての電気が止まった
溜息をこぼし、闇に目を慣らしつつ、明かりが無いのは心許無いものだなと思う自分に
苦笑いして、それでも雷光があれば良いかと窓の方に振り返ったとき
人影がいた
「......」
治安の悪化とかセキュリティとか、散々叫ばれている昨今だけど
何も野郎の一人暮らしの家に侵入しようとする奴がいるとは思わなかったな...。
ご丁寧にも右手らへんで光っているものは、刃物なのだろう
如何にもなぼろい学生向けの、
男しか住まない様なアパートを狙わなくても良いだろうに
金目の物なんか、勿論無い。
だったら...。
「...とりあえず」
奴は窓辺に突っ立ったまま
だけど、明らかに殺意とも何ともいえない意識を向けられているのが解る
「喉がすげえ渇いているから、一杯飲ませて」
ナイフの刃先が、自分に向かっているのをさり気なく見つめる
カーテンの隙間から漏れる微かな光に反射して、キラリと輝く
いつまでも停電なわけじゃない
数秒か、数分後か。
この部屋に明かりが再びともった時、こいつの顔が照らされる時
終わっているのか生きているのかを思うと
じわじわとくる奇妙な高揚感に、自分の何かが軽くなった気がした。