これは愛だ
俺にとって必要な手を、目の前の男が優しく触れる。
危機感はない。
この人が俺の手を害することなどありえない。
「恵の手は大切だからね」
指を一本一本確認するように、大きなあたたかい指で触れられる。
それを黙って見ていると、突然焦ったように、
「もちろん、全身全部髪の毛一本も大切だよ!!」
大声で叫ぶのでびっくりした。
「そんなこと聞いてないです」
髪の毛一本...ちょっと...と思いつつ、またやわらかく俺の指を触り始めた
五条先生の好きにさせる。
俺の手を大きな手で優しく撫でるように、いたわるように触れる。
「そんな恵の手に触れられるなんて幸せ!」
「そんなもんですか」
確かに無防備に触らせるなんて、あまりない。
俺にとっての手は、存在意義と同じだから。
五条先生は一通り俺の指を触った後、指の間に自分の指を差し込んで
ぎゅっと握った。
「恵も、僕の手をぎゅってしてみて。」
幸せそうな顔で言われて、その通りにする。
絡めあう指。
なんだかこれは。
「えへへ、恋人繋ぎ~。」
そういう名前なのかと、しみじみと絡めあうお互いの指をみながら。
思ったことを口にする。
「俺、恋人繋ぎって何か恥ずかしいです。指で抱きしめられているみたいで。」
そう口にすると、五条先生はぽかんとした顔をした後、ばっと手を外した。
あっ、残念。
「うわーっ!!!」
俺の手をがばっと放した五条先生はその大きな掌で自らの顔を押さえる。
突然叫ぶなと思いつつも、
耳まで真っ赤な五条先生の顔は面白い。
でも、今まで触れていたぬくもりが無くなって寂しい。
五条先生の熱が無くなった自分の手を見てつぶやく。
「...寂しいです。」
すると五条先生は、ふるふると震えた後抱きついてきた。
いや、手が寂しいのであってと思いつつも抱きしめられるのは嫌ではない。
「くうっ!甘えたちゃんめ!!他のやつにしたら、めっだよ!」
「あんた以外ありえないし。」
めって、子供かよと呆れつつ大きな背中に俺も手をまわす。
大きな背中過ぎて、腕をまわしきれないのが悔しいと思いつつ。
「もうそんな恵ちゃんには抱きしめの刑です!!」
ぎゅうぎゅうと抱きつかれる。
何だかおかしくなって、笑い声が出てしまった。
そんな俺を見て、五条先生も笑って。
すっぽりと抱きしめられていてあいにく顔は見えないけれど、
声は茶化しているのに
赤くなっている五条先生の耳がいとおしくてもっと笑う。
「こんな素敵なルッキングガイを笑うのなんて、恵ぐらいだよ!!」
「俺の特権ですから」
俺の背中に回る腕、頬につくあたたかい体。
優しく触れられるのも好きだけれど。
その力強い腕が心地いいと思った。